先日、スマホで動画を見ていたら、堀江貴文さんによく似た顔写真の広告が流れてきました。
「優良株の情報を無料で教えます」というコピーと一緒に、LINEの友だち追加ボタンが出ていました。
一瞬、指が動きかけました。
でもよく見ると、写真の輪郭が少しぼやけていて、フォントも本人のSNSで見る雰囲気と違いました。
僕は登録しませんでしたが、もし忙しいときにスマホをぼんやり眺めていたら、押していたかもしれません。
そのくらい、この手の広告はよくできています。
消費者庁は2026年9月3日、こうした「なりすまし広告」への注意喚起動画を公表しました。ちょうど昨日の話です。
今回は、この広告の何が問題で、どこを見れば本人ではないと分かるのかを整理します。
消費者庁が動画まで作った理由
消費者庁が2026年9月3日に公表したのは、「なりすまし広告詐欺等に関する注意喚起動画」です。
内容は、SNS上で著名人を名乗る、あるいは著名人とつながりがあると称して投資や副業に勧誘する手口への警告でした。
わざわざ動画を作って警告するというのは、それだけ被害が止まっていないということです。
この手の広告は、以前からずっと問題になってきました。SNS型投資詐欺そのものの被害規模も、2026年上半期だけで800億円近くまで膨らんでいます。
国民生活センターが2024年5月に公表したデータでは、著名人になりすました広告に関する相談が2023年度に1,629件寄せられ、前年度のおよそ9.6倍に急増していたことが分かっています。
そして1件あたりの平均契約金額は687万円。前年度から453万円も増えていました。
金額の桁が大きいのは、投資というテーマ自体が「大きく増やせるかもしれない」という期待を前提にしているからです。数百円のいつもの買い物とは、財布の緩み方が違います。
実際に名前を使われた人たち
この手の広告に名前と顔を勝手に使われた著名人は、一人や二人ではありません。
堀江貴文さんの場合、「ホリエモンが優良株を教える」というFacebook広告から誘導された60代男性が、約1,000万円の損害を受けたという報道がありました。
池上彰さんの場合は、2024年4月に広島県の72歳男性が「優良株購入の特権がある」という投資話で710万円をだまし取られ、その後さらに200万円を振り込んでから被害に気づいたと報じられています。
前澤友作さんは、自分の名前を使ったFacebook広告からLINEの友だち登録に誘導し、暗号資産取引や投資名目で振り込みを迫る詐欺が横行していることを受けて、東京地方裁判所にメタ社を提訴しました。請求額はわずか1円ですが、目的は広告の掲載差し止めです。
池上さんは長野県警・愛知県警の要請を受けて注意喚起動画の制作にも協力し、投資商品の宣伝は一切していないとはっきり述べています。
つまり、名前を使われている本人たちが、そろって「自分はやっていない」と言っているわけです。
これだけ有名な人たちが、繰り返し名前を使われ続けているというのが、この詐欺の異様なところやと思います。
手口はだいたい同じパターン
被害事例を並べてみると、流れはほぼ共通しています。
まず、FacebookやInstagram、YouTubeの広告で著名人の写真と名前が出てきます。「無料で投資を教える」「優良株の情報を公開」といった、耳の痛くない誘い文句が添えられています。
広告をタップすると、LINEの友だち追加ページに移動します。
友だち追加すると、本人ではなく「アシスタント」や「秘書」を名乗る人物からメッセージが届きます。
その後、投資グループのようなチャットに招待され、他の「参加者」たちが儲かっている様子を見せられます。実際は仕込みです。
最初は少額の投資で「利益が出た」ように見せられ、出金しようとすると「税金がかかる」「保証金が必要」などの理由で、さらに振り込みを求められます。
振込先には、投資会社の口座ではなく、個人名義の口座が指定されるケースが多く報告されています。
ここが、詐欺かどうかを見分ける最もはっきりした一線です。
個人名義の口座は、その時点で詐欺です
消費者庁は今回の注意喚起で、「投資資金の振込先に個人名義の口座を指定された場合、それは詐欺です。振り込まないでください」と、かなり踏み込んだ表現で警告しています。
証券会社や投資運用会社が、正規の取引で個人名義の口座への振込を求めることは、まずありません。
法人としての事業口座を持っているのが普通だからです。
この一線さえ覚えておけば、どれだけ広告が本物っぽくても、どれだけチャットの雰囲気が盛り上がっていても、振込の直前で立ち止まれます。
もうひとつの一線は、「著名人本人が直接LINEでやり取りすることはない」という点です。
本物の堀江貴文さんや前澤友作さんが、見ず知らずの一般ユーザーに個別でLINEを送って投資を教えることは、常識的に考えてまずありません。
広告に有名人の顔が出ていても、それが本人による発信かどうかは、本人の公式サイトや公式SNSアカウントで確かめる。これだけで、かなりの割合を防げます。
「顔が本物っぽい」を信じすぎない
正直、最近の詐欺広告は写真も文章もかなり精巧です。
AI技術を使ったフェイク動画や音声で、堀江貴文さんを名乗る人物が実際にしゃべっているように見せる手口まで報告されています。
映像や音声まで本物っぽいと、「これはさすがに本人だろう」と思ってしまう気持ちは、僕もよく分かります。
でも、映像や音声の精巧さと、その人物が本当に投資を教えているかどうかは、まったく別の話です。
判断材料にすべきは「見た目の説得力」ではなく、「本人の公式チャンネルで同じ発信をしているか」だけです。
Meta社(Facebook・Instagramの運営元)側も対策を進めていて、2026年2月には詐欺広告主に対する法的措置を実施したと発表しています。広告審査をすり抜けるための「クローキング」という手法を検出するAI技術にも投資を続けているとのことです。
ただ、対策と手口はいたちごっこです。プラットフォーム側の対策を待つより、自分の側で一線を持っておくほうが確実やと思います。
広告を見かけたとき・被害に遭いそうなときにできること
まず、広告そのものを見かけただけなら、Facebook・Instagramの広告の右上にある「…」(点3つ)のメニューから「広告を報告」を選び、「詐欺または詐欺行為」を選択すれば通報できます。
自分が被害に遭わなくても、通報が増えれば同じ広告が他の人の目に触れる回数を減らせます。
もし話が進んでしまい、振込を求められている段階なら、その場で振り込まず、いったん立ち止まってください。
すでに振り込んでしまった、あるいは振り込みそうになって不安がある場合は、消費者ホットライン「188(いやや!)」に電話すれば、最寄りの消費生活センターにつながります。
警察に相談したい場合は、警察相談専用電話「#9110」が窓口です。事件性がある場合はそのまま警察署への相談につながります。
「恥ずかしいから相談しにくい」と感じる人もいると思いますが、消費生活センターも警察も、こうした相談を日常的に受けています。早く動くほど、お金が戻る可能性も、被害の拡大を防げる可能性も高くなります。
似た構図の詐欺として、警察官をかたる「ニセ警察詐欺」や、SMSから送金画面に誘導する手口もあります。「本物の肩書き・本物の顔」を借りて信じさせようとする点は、なりすまし広告と同じです。
この記事が向かない人
正直に書いておくと、この記事は、SNSの広告をほとんど見ない人や、投資そのものに興味がない人には、あまり関係のない話です。
すでに証券口座を持っていて、金融庁登録業者を通じてしか取引しないと決めている人にも、今さらの内容だと思います。
逆に、動画アプリやSNSを見る時間が長い人、投資を始めてみたいけど何から手をつけたらいいか分からない人、家族に高齢の方がいて情報が届きにくい人には、知っておいて損はない話だと思います。
まとめ
消費者庁が2026年9月3日に注意喚起動画まで作ったのは、なりすまし広告による投資詐欺が、それだけ止まっていないからです。
国民生活センターの発表では、2023年度の相談件数が前年度の9.6倍、平均被害額は687万円。堀江貴文さん・池上彰さん・前澤友作さんといった名前が実際に無断で使われ、それぞれ本人が抗議や提訴に動いています。
覚えておく一線は2つだけです。
「個人名義の口座への振込を求められたら、それは詐欺」。「著名人本人が個別にLINEで投資を教えることはない」。
広告の作り込みがどれだけ精巧でも、この2つを思い出せれば、振込の直前で立ち止まれます。
僕自身、あの日の広告に指が動きかけた経験があるからこそ、この一線は覚えておこうと思いました。
本記事は、消費者庁・国民生活センター・警察庁の公表情報および報道をもとに、会社員が個人の立場で執筆しています。投資の勧誘や特定商品の推奨を行うものではありません。制度や統計は今後変わる可能性があるため、最新情報は消費者庁・国民生活センターの公式サイトでご確認ください。詐欺被害に遭った、または遭いそうな場合は、消費者ホットライン「188」または警察相談専用電話「#9110」にご相談ください。